雨のリフレイン
そこへ、医師との話を終えた母がやってきた。
憔悴した母の様子に、一瞬、柊子の顔が強張る。
やはり、楽観視できる状態ではないのだろう。


「八坂さん、こちらどうぞおかけください」


父の枕元に、パイプイスを出してくれたのは水上だ。


「あなた…研修医?」
母は、水上を見てボソっとつぶやいた。


「はい」
「そう…忙しいのに、ついていてくれてありがとう。
柊子、お父さんとお話できた?」
「だってお父さん寝てるし」


肩をすくめる柊子に、しょうがない子ねとつぶやいてから、母は父の寝顔をじっと見つめた。


いつも、元気で笑顔を絶やさない母の頬を涙が伝う。


「お母さん、とりあえず着替えない?
その格好じゃこの病院のスタッフと間違えられるんじゃない?
私、お母さんの着替え、取ってきてあげるよ」


母の涙。
見てはいけない気がして、この場から離れる言い訳をした。


「お父さん、皆心配してるから。
早く起きてよね〜。
じゃ、行ってくる」


柊子は極めて明るく父に声をかけて、集中治療室を出た。



廊下の窓に雨粒がついていた。
いつのまにか、雨が降っていたようだ。


ーー雨、か。


雨が降っている今なら大丈夫。


< 10 / 302 >

この作品をシェア

pagetop