雨のリフレイン
「信子さんは、今日を目標に頑張ってきた。
家族写真を撮って、安心して、ガクッとならないように気をつけないと。
次の目標は、君の国家試験合格だな。その次は、何がいいかな。みんなで旅行とかでもいい。
とにかく、何でもいい。『生きたい』って頑張る目標を常に持ち続けて欲しい。それこそが、どんな医療にも勝る長生きの秘訣だ」

衣装室まで移動する道すがら、水上が言った。

「…そうですね。私、勉強頑張ります。
お母さんの分も看護師として働かなくちゃ」
「俺のことも忘れずに。
一人で全て背負わなくていいんだから。今は、勉強第一だ」

頼もしい水上の言葉に、柊子は笑顔で応える。

「ありがとう。
先生は滅多に私を甘やかさない。だけど、ちゃんと見ててくれる。
だから、大好きよ、水上先生。
ホントに辛い時は、頼らせて下さい」


水上は、ポンと柊子の背をたたき、耳元で一言ささやくと男性用衣装室へと入って行った。


「奥様は、こちらですよ。どうかされましたか?」
「あ、いえ、大丈夫です」


ホテルのスタッフに呼ばれて、柊子は慌てて部屋に入る。
最後に囁かれた水上の言葉が耳を離れない。


『俺も』


俺もって、どういうこと?
俺も頼らせてってこと?
それとも…
俺も、大好きってつなげてもいいのかな。
まったく、悩ませる一言を残して…
勝手に自分に都合のいいように解釈してしまいますよ?水上先生は、私のことを好きでいてくれるって。

そう思っただけで、幸せすぎる。

私、今日は、ヤバいくらい幸せだ。

幸せすぎて、なんか怖いくらい。


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