雨のリフレイン
いつもの柊子ならそんな翔太に、冗談ばかりと笑いとばすところだ。
だが水上の苦悩を知って不安に襲われていた柊子に、翔太のジョークを笑い飛ばす余裕はなかった。


水上は、信子と柊子を家族だと言ってくれた。多分、それは彼の本意なのだろう。

でも。

持病のある母。まだ学生の柊子。
二人さえいなければ、仕事に集中することも容易いはず。はたして仕事に支障をきたす『家族』など、本当に必要なのだろうか。
仕事に支障をきたす『家族』なら、水上家の後妻と変わらないのではないのだろうか。
居ない方がいい。


「柊子ちゃん?」


柊子の反応がいつもと違う。翔太は柊子の顔を覗き込んだ。


「あんなにいい天気だったのに。夕立かしら」


柊子は、ぼんやりと窓の外を見ていた。
いつしか黒い雲が垂れ込めて、夕陽のわずかな明るさも遮られていた。窓にポツポツと雨が打ち付けている。

ーー私は、居ない方がいい。

さっきまでのくすぐったいような幸せは、そんな思いにかき消されてしまった。一刻も早くこの場を立ち去りたい…


「翔太先生、今日はありがとうございました。
素敵な思い出できました。食事も最高に美味しかった。
明日からまた勉強、頑張ります」


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