雨のリフレイン
「八坂柊子さん?」


いきなり名前を呼ばれて、驚いたのだろう。女子高生は体をびくりと揺らしてゆっくりと振り返る。


「あ、さっきの先生…」


青ざめた顔。その頬にはくっきりと涙の跡。


ーーこの子、人目のつかないところで泣いていた?


「見つかっちゃった。
あ、先生。勘違いしないで!
これは、雨ですから」


柊子はニッコリと微笑んで、目に浮かんだ涙を指差してから、手でグイッと拭った。


「いや、どう見ても泣いて…」


「まさか!
どうして泣く必要があるの?
お父さんは、すぐに目を覚ます。そして、今まで通りの生活に戻るんだから。
さ、急いで行かなくちゃ」


柊子は、なんとか元気を振り絞ってそう言い放ち、この場を逃げ出そうとした。


だが、次に発せられた水上の言葉で足が止まる。


「…まだ高校生なのに。なぜ、そんなに我慢するんだ。
その笑顔はなんだ?貼り付けたようで気味が悪い。嫌な笑い方だな。
そんな無理を、なぜするんだ?
本当は、わかっているんだろう?」


柊子の顔から笑みが消える。
かろうじて振り絞ったカラ元気も、核心を突いた水上の前では脆く消散してしまった。


「…私、先生やお母さんみたいに、医療の知識ないから。
だから、わからない。
わからないから、とりあえず希望を持って、笑うの。
お母さんにも、お父さんにも心配かけたくない。

放っておいて、先生。
大丈夫。全て雨が隠してくれる」


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