雨のリフレイン
好きだから、辛い
水上の車の後部座席に母と一緒に乗り込む。
車が駐車場を出て5分もしないうちに、母は窓にもたれて寝息をたてた。
「やっぱり、信子さん相当疲れてるな」
「そうですね」
柊子と水上が車内で交わした言葉はわずかにそれだけだった。
雨は、まだまだ勢いよく降っている。
タイヤが道路の水をかき分ける音、ワイパーが動く音、そして車に打ち付ける雨音。
会話のない車内の中、柊子を包むのは雨の音だけ。
柊子は、心が折れそうになる。
雨音に包まれていると、抑えていた感情が溢れてきて、泣いてしまいそうだ。
10分足らずで車はマンションに着くはず。
だから、もう少し。
もう少し…
車が地下駐車場に止まった。
泣かずに我慢できて、ホッとする。
「信子さん、起きそう?」
エンジンを切って水上が振り向いて後部座席の母を見る。
「熟睡してます。…お母さん、着いたよ?」
「あぁ、いい。起こさないで」
水上はそう言って車を降りると、後部座席のドアを開けて母を横抱きにした。
「君、荷物を頼む。あと、車のロックも」
「え、あ、はい」
柊子は、母のバックと水上のバックを手に車を降りた。
それから、車のドアについているロックボタンを押す。
ロックの音を確認すると、水上は母を抱えてスタスタと歩き出した。その後ろを柊子がついていく。
母は、具合が悪かったり、寝てしまったりと、何度も水上にお姫様抱っこしてもらっている。
…不謹慎だけど、ちょっとうらやましい。