雨のリフレイン
5.ガラスの鎧

老兵の去り方

夏が終わり、秋は急ぎ足で過ぎ、季節は冬へと変わった。
病院内にモミの木が飾り付けられ、クリスマスももうすぐという時期。

洸平は、多忙を極めていた。
大学病院での通常の義務に加え、翔太と共に新しい医療センターの立ち上げに参加していたからだ。

ヘトヘトでマンションに帰ると、たいてい信子は寝ている。
柊子は勉強していることもあるが、力尽きて机に突っ伏して寝ていることが多い。
あえて声はかけない。
一、二度、洸平の部屋のベットで、毛布も掛けず倒れるようにして眠っていたこともある。


寂しいのかもしれない。


ウェディングフォトを撮ったあの日。気持ちを伝えあい、初めて彼女を抱いた夜からまともに話も出来ていない。
なるべく一緒にいようと言ったのに、結局このざまだ。
クリスマスやカウントダウンみたいな恋人達が盛り上がるイベントも差し迫ってはいるものの、柊子は国試対策で忙しいし、自分も余裕がないことがわかっているので、あえてスルーすることにする。


ーー寂しいのは、俺かもな。


柊子を見ると抱きしめたくなる。
勉強に集中して疲れている彼女の貴重な睡眠時間を奪ってでも、彼女を抱き潰してしまいたくなる。
愛おしくてたまらない。


ーーやっぱり、卒業まで我慢するべきだったか。


一度知った彼女の温もりは、耐えられないほどの媚薬。自分を抑えるために、仕事に打ち込んでいるようなものだ。








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