雨のリフレイン
「水上先生、私を助けて下さい。名古屋に来て。
横浜は、翔太先生がいるから大丈夫ですよ」

頭を抱えながら、香織が切羽詰まった声でつぶやく。

「俺は、無理。…三浦先生、君の本心は?
来て欲しいのは俺じゃないんだろ」

洸平は、拾った書類を香織の前に置く。そして、論文の著者の名前を指差した。

「コイツの論文、ファイリングしてあるんだな」

洸平の視線の先には、机上に立て掛けられた一冊のファイル。
背表紙に『團』とだけ書いてある。たった一文字の背表紙でかなり使い込んでいる紙のファイルは、スタイリッシュな香織が使うには違和感があった。

「俺の同期に『山岸團(やまぎし だん)』ってアメリカに留学したヤツがいるんだが。
團なんて、ちょっと珍しい名前だろ?しかも首席だったから皆で“団長”なんてあだ名つけてさ」

拾った論文にはDan Yamagishiの名前があった。

「あぁ…それは勉強の為に…」

香織は、目の前に置かれた論文の名前を指でなぞる。切なげな表情が彼女の本心を物語っていた。





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