雨のリフレイン
「私は、帰ります」
そう告げたものの、三浦の足は動かない。

おそらく、三浦を『香織』と呼んだ水上の隣にいる男性。三浦はその男性に怯えている。
柊子の腕を掴むその手はわずかに震え、まるですがるよう。


「三浦先生。
これが、ラストチャンスだ。本当にいいのか?」
「もう、終わったことよ、水上先生。意外とお節介なんですね」


柊子に、水上と三浦の会話の意味はわからない。でも、互いに一歩も動かず、しばらく膠着状態が続く。


「あの、込み入った話みたいだから、やっぱり移動しませんか?こんなところで話し込んでいたら、病院関係者に見つかりますし」

「ああ、それもそうね…」

「三浦先生、私、一緒にいますから。少しだけお話しましょう。
水上先生、私、先に三浦先生を連れて行きます。水上先生は、コンビニに寄ってからきて下さい」


緊迫した空気を破ったのは、柊子だった。
言うや否や、洸平の返事も聞かず、三浦に断る隙も与えず、彼女の手を引いて歩き出す。


「ちょ、ちょっと八坂さん」
「あの人、誰なんですか?」
「いきなりハッキリ聞くのね。…元カレってやつよ。まぁカレシだと思っていた、が正解だけど」


二人でマンションに向かいながら、ポツポツと話をする。


「真剣に付き合ってると思ってたのは私だけ。結婚を匂わせた途端、彼、アメリカ留学。逃げられたってワケ」
「そんな人が今更どうして」
「水上先生のしわざよ。
私、父が病気で名古屋に戻ることになったの。父が決めた相手と見合いして結婚する事になるわ。たぶん、私に未練が残ってるって気づいたんだと思う。あの二人、同級生だったから」


そんな話をしながら歩いているうちに、マンションに到着した。
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