雨のリフレイン
おかえりが聞きたい
「アメリカで勉強してくる」
あの日、山岸に前触れもなくいきなり告げられた。
「え?アメリカ?留学するの?急にどうして?」
「以前からやりたかった心臓移植の勉強をさせてもらえることになった。今行かないと後悔するから」
告げられた時には、彼の中ではアメリカ行きは既に決定事項だった。
「…」
私のことは?
そう尋ねたくても、聞けない。聞いたところでアメリカについて行くことは出来ない。
「團、一人で決めたのね。それなら、私が言うことは何もないわ。
いってらっしゃい。頑張ってきて」
プライドが邪魔して素直になれない。行かないで、捨てないでと泣きつくようなことは絶対にできない。
「君ならきっとそう言うと思ったよ。
僕は、絶対に医者として成長して、自分に自信をつけてくる。
…だから、僕はここで時間を止める。
君にただいまと言うまで、君との時間を止める。
香織は、前に進んで構わないよ。僕の勝手なわがままに付き合う必要ないから」
「あ、当たり前でしょ。
團が日本に帰る頃には私、貴方なんかよりずっと私にふさわしい最高の人を見つけているわ」
ふわりと優しく抱きしめられて。それでも口からは可愛げのない言葉しか出てこなくて。
「ごめんな、香織。行ってくる」
いつもと変わらず優しい山岸の胸で、静かに泣くしか出来なかった。