雨のリフレイン
「お母さんが、ここに来るのを一番楽しみにしていたのに」
「このところずっと調子良かったのにな。柊子の卒業が嬉しかったのと同時に、ホッとして気が抜けたのかもしれないな」
「…まだ、国試の結果も出てないのに」
「首席で卒業した柊子が不合格なわけないだろ」


二人きりで食事なんて、初めてかもしれない。
会話もなんだかぎこちない。

結婚してもうすぐ一年。二人きりで出かけることはなかった。
いつも母や翔太が一緒だったから、なんだか緊張してしまう。

周りの友達は、勉強で忙しいながらも時間を作って彼氏とデートもしたり恋愛を楽しんでいた。
思えば、洸平とデートなんてしたこともない。二人きりになることも滅多にない。

父が亡くなって四年も隣に住んでいて、この一年は家族としてこんなに近くにいても、そんなものだった。

これから洸平が横浜に行ってしまうことを思えば、二人の関係がこれ以上に変わるとは思えない。

でも、それでいいのだ。思い出は少ない方がいい。これから別れることになっても、思い出して切なくなって泣きたくなる思い出なんて無い方がいい。
柊子は淋しさを感じるたびに、ずっと自分にそう言い聞かせてきた。




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