雨のリフレイン
「ケンカでもしたの?」

柊子は、洸平がもう出立したことを知らずに動揺する。

「…怒らせちゃって。あ、でも、大丈夫。心配しないで、お母さん」
「夫婦げんかも時には必要よ。しょうがないのよ、もともと他人同士なんだもの。
でもね、一つけんかするたびに、絆は深まるから。ちゃんと、謝るのよ?」

母は、そう言ってくれたけど。
なんとなく、もう、ダメなような気がしてならない。


別れ際、洸平は無表情で怒っていた。
期限をつけてもいいし、今すぐ籍を抜いてもいい。慰謝料すら簡単に用意すると言っていた。
柊子との婚姻関係など、もうどうでもいいのかもしれない。

別れるなら思い出は少ない方がいいけれど、これが一番記憶に残る最後の思い出なら、苦くて、切なすぎる。



不安を抱えたまま、それからわずか二週間後、柊子は晴れて光英大学病院のナースになった。



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