雨のリフレイン
「オレはヤクザだから、正直ガキは要らなかった。欲しいとも思ってなくてよ。
だから女に子供が出来たとき、すぐにおろせと言った。それなのに女は俺と別れてまで内緒で子供を産みやがった。俺のこと、本気で惚れ込んでくれていてどうしても産みたかったと。
産んじまったものはしょうがねぇ。金だけでもやるかって、とりあえず会いに行ったのさ」


いつものように、検査を待つ間、桜木とたわいもない話をする。
桜木は、懐かしそうに目を細めながら自分の手のひらを見つめた。


「それがめちゃくちゃ可愛いかったんだ、自分のガキっていうのは。純粋そのもののキラキラした目で俺を見て、ちっせぇ手でオレの指掴んだらもうメロメロさ。産んでくれて女には本当に感謝した」


いつもなら、笑顔で相槌をうって聞ける。


だが、今の柊子は、桜木の言葉が重くのしかかってきた。
洸平も、知らないうちに柊子が子供を産んだらどう思うだろう…と、考えてしまう。


「…柊子さん。俺は今回の検査の結果を持ってアメリカに行くことした。
残された時間はアメリカで、『親子の時間』ってやつに費やすつもりだ。失ったと、取り返しがつかないと思っていた時間が、やり直せる。いや、新しく紡いでいくことができるなんて、思いもしなかった」




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