雨のリフレイン
金曜日。


横浜には午後着けばいいので、柊子はまず午前中は東京へ向かった。

東京に戻ると、真っ先に光英大学病院の山田師長を訪ねる。無事であることを告げ、色々と迷惑をかけたことを詫びるためだ。

山田は、柊子の復帰を待っていると明るく接して励ましてくれた。


「三浦先生の病院に転院だなんて、どうなるかと思ったけど、元気そうで良かったわ。
信子はどう?」

「だいぶ、落ち着きました。香織先生のご主人が提案してくれた新しい治療法を試してみようと思っています」

「アメリカ帰りの、確か水上先生や翔太先生の同級生だった山岸先生でしょ?あの先生なら間違いないわね」


山田が柊子に笑顔を向けた。


「あなたも、体調はどう?」


辞めると告げた柊子は、理由の一つに母の容体悪化を述べた。そして、もう一つ、妊娠も報告してたのだ。


「おかげさまで、大丈夫です」
「良かったわ。信子の生きる希望だもの、大事にしてね。
あ、それと」

山田は、自分のデスクの中から一枚のカードを出して柊子に手渡した。
光英大学病院の身分証。最初は退職を希望したため、山田に預けたままになっていた。

「前に水上先生があなたの私物を取りに来てくれた時に渡しそびれたの。
首を長くして待ってるわよ」
「…はい。ありがとうございます」

ここにまだ、自分の居場所が残っていることが嬉しかった。柊子は身分証をしばらく見つめてから、着ていたブラウスの胸ポケットに大事に入れた。


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