雨のリフレイン
バスは、定刻通りに出発した。


バスが走り出すと柊子は、バックの中から母子手帳を取り出した。
可愛らしいコウノトリが赤ちゃんを運んでいる表紙を開くと、赤ちゃんのエコー写真が挟まっている。
これを見たら、彼はどんな反応をするだろう。赤ちゃんの存在なんて、想像もしていないに違いない。



ーー君は、いつも忘れてるけど。
俺は自分が結婚しているって、片時も忘れていないよ。
水上柊子。それが俺の妻の名前だ。


そうだよね、私、水上柊子なんだ。洸平さんの奥さんで赤ちゃんのお母さんなんだよ。
だから、大丈夫。
きっと、大丈夫。
やり直せる。




ぼんやりと外を眺める。
どんよりと垂れ込めた雲は、今にも雨を降らせそうだ。

母も一緒にきて欲しかったけれど、長距離の移動はなかなか大変だし、これは二人の問題だから、と断られてしまった。


窓から見える景色に、次第に『横浜』の文字が増えてくると、ドキドキしてくる。


会ってくれなかったら、どうしよう。
不安に駆られて、携帯電話のメッセージアプリを開く。
念のため、『今、バスに乗って向かっています』と送った。






その時だった。






「わ、わぁっ！！！」




叫び声がしたと思ったら、ものすごい破裂音がして、頭に強い衝撃が走った。全身がバスの車体に叩きつけられる。
柊子はとっさにお腹を庇った。







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