雨のリフレイン
「うぅ…よかった…看護師さんがいたなんて…」

うめき声が、安堵の声に変わる。



柊子は、自分の座っていた席の近くの乗客から、一人ずつ声をかけた。


最初は二列後ろの、40代くらいだろうか。妖艶な雰囲気の綺麗な女性。青ざめて頭を押さえている。


「お名前を教えてください。どこか痛いところはありますか?
あと、もし、持病や普段飲んでいる薬があれば教えてください」


柊子の声は緊張でわずかに震えていた。だが、懸命に笑顔を浮かべて話しかけた。


「名前は、山口瑠璃子(やまぐち るりこ)。
今は、頭が痛くて。
普段は血圧の薬を飲んでるわ」


柊子は、手にした手帳にメモをする。
名前、生年月日、持病、現在の症状などをメモした手帳のページをちぎって渡した。


「救急隊員の方に渡して下さいね」

「あなた…この紙…
それに、あなたも頭から血が」
山口瑠璃子と名乗った女性が、手渡された紙を見てそれが母子手帳の1ページだと気づく。

「大丈夫。
すぐに、助かります。一緒にあと少し、頑張りましょう」

会話をするうちに、緊張も不安も己の痛みも忘れ、仕事の時のように自然と体が動くようになっていった。
柊子は自然とこぼれた優しい笑みを浮かべ、他の席に移動する。



一番の重傷は運転手で、意識がない。



「救急車の音だ!」



乗客が、ホッとしたように叫ぶ。
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