雨のリフレイン
「洸平、こっちかわる」
オペ室にいきなりやってきた翔太に、洸平は怪訝そうに眉をひそめた。
「なんだよ、翔太。大丈夫だよ」
洸平は、オペの手は休めずに答えた。
「いいから、行け。
今運ばれてきた患者。脳挫傷の疑いがある」
翔太の様子がおかしい。何かトラブルでもあったのかいつもの余裕がなく、焦りすら感じる。
「だったら、なおさらお前の方が得意じゃないか。一体どうしたんだよ」
「いいか、落ち着いて聞け。
患者の名前は、八坂柊子、だ」
初めて、洸平の手が止まる。
そして、傍らの翔太の顔を見た。
「何を言ってるんだ。
そんなバカな。
なぜ、柊子が?」
「そんなこと知るか!お前に会いにきたんじゃないか?
いいからとにかく行け。
もしもの時は、夫であるお前の許可がいる」
もしもの時?
もしもの時ってなんだ。
夫である俺の許可ってなんだ。
翔太が呆然としている洸平を突き飛ばすように、オペに入る。
「洸平。
…洸平っ!何をぼやっとしてるんだ、早く行けっ!」
オペ室に翔太の怒号が響く。
「あ、後は頼んだ、翔太」
洸平はとりあえず手袋と術衣を脱ぎ捨てると、オペ室を出た。