雨のリフレイン
信じられない。翔太が間違えているんじゃないかと思いたい。同姓同名の別人なんじゃ…

「あ、水上先生。こちらです」

血相変えてやってきた洸平が、処置室のベッドで見たのは。

「…柊子」

紛れもなく、柊子本人だった。

「水上先生。
検査の結果、脳挫傷は見られず、脳しんとうを起こしている状態です。こめかみに少し裂傷が見られましたが、問題ありません」

「…?桜川先生?」

普段、ここにはいないはずの産婦人科医だ。彼は洸平に、何ページもちぎってぼろぼろになった、コウノトリが表紙の手帳を差し出した。

「…?」

「すばらしい奥さまですよ。
患者さん、みんなすごく感謝してました」

この母子手帳は、柊子の所持品なのだろうか。
その意味することを理解出来ない。いや、頭が理解しようとしない。

「水上先生。大丈夫です。奥様も胎児も無事です。
相当な痛みと精神的ショックの中、ほかの乗客の為に看護行為を行ったなんて…赤ちゃんもよく頑張りました」


「私に、何かできることはありますか?」


かろうじてそう尋ねた。


「側にいてあげて下さい。今はとにかく安静にすることです。安定期とはいえかなりの衝撃だったはずです。後遺症など気をつけてみていてください」

桜川医師は、洸平に一礼すると戻っていった。


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