雨のリフレイン
「あっ、先生!あの看護師さんは?赤ちゃんは無事だったんでしょうか!?」

廊下にいたのは、一人じゃなかった。
彼らは軽傷だったので、すぐに帰宅できるはずだったのだが。

「あの方だって被害者なのに。
笑顔で励ましてくれたんです。それがどんなに救われたか」
「僕は見たことないから気づかなかったけど、まさか大事な母子手帳をメモにしてくれていたなんて。知って驚きました」


柊子。
君は、やっぱり、すごいな。


洸平は、体の震えを抑えられなかった。

「いまはまだ意識が戻っていませんが、怪我は大したことありません。子供も無事です。
ありがとうございます。妻に代わって、皆さんのお気持ち、有り難く頂きます」

「え?あの看護師さん、先生の…?」

洸平は小さく頷く。

「自慢の、妻です」



「あ!ちょうど良かった。
水上先生、お願いできますか?
急患です」

そこへ、また新たな救急車が到着する。

「…あぁ、今、行く。
では、皆さんも、お大事になさって下さい」



とにかく、目の前にある仕事をしよう。
本当はそれどころじゃない。柊子の側にいたい。
だが、仕事を放棄すれば柊子に会わせる顔がない気がする。極限状況でも看護師として人々を笑顔で励ました柊子に。



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