雨のリフレイン
「念のため今日は入院してもらうよ。もし何かあれば遠慮なく呼んで」
「はいはい。まさか若先生に世話になる日が来るなんてね」
「あ、それ、桜木のオヤジにも言われた」

クスクスと笑い声。
女性と話す優しい男の声になんとなく聞き覚えがある気がした。

だが、どこにいるかもわからない状況。知り合いがいるとは思えない。


「…あれ?
なんで、アイツ仕事してんだよ。
ダメだよ、アイツに仕事振っちゃ。今、まともな仕事出来ないだろ」


不意にその男の声から優しさが消え、怒りすら感じさせる声に変わった。


「でも、部長、先生が自分から…」
「全く、アイツは大バカだよ。今日は、アイツが何を言ってもこれで上がらせるから」

カーテンの隙間から、白衣が見えた。
一旦通り過ぎたその医師は、ハッと気付いて柊子のベッドに駆け寄ってきた。


「柊子ちゃん。気がついた?あれ、震えてる?
寒いのかい?どこか痛いのかい?」


顔を心配そうに覗き込んだのは、翔太だった。聞き覚えがある声のはずだ。
知った顔を見て、ホッとしたのもつかの間。
何故、翔太がここにいるのかわからない。


「…し、翔太、先生?どうして?
ここ、どこですか?」

「ここは、光英大学附属横浜新医療センター。柊子ちゃんは、バスの事故でここに運ばれたんだ。
わかるかい?」
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