雨のリフレイン
不意に、頬に冷たいものが当たる。


「じきに薬が効いてきて、楽になるから。
もう少しの辛抱だ」


冷たい洸平の指先が、そっと頬を撫でる。


洸平が怖い。
拒絶された記憶が鮮明に蘇る。
その上、子供は要らないと言われていたのにずっと言えなかった。
すでに妊娠七ヶ月の赤ちゃんを抱えて交通事故で運ばれて来たなんて、洸平はどう思っているだろう。

体じゅうあちこちがひどく痛む。頭が特に痛い。
さっきから、何となく胎動も感じない。

全てが恐怖になって柊子を苛む。


「赤ちゃんに何かあったらどうしよう。
私が守ってあげなくちゃいけなかったのに。私しかいないのに。
怖い。怖い。
体じゅう、痛い」


雨の中じゃないと涙を見せない柊子が、ボロボロと泣いている。
明らかに錯乱している。
こんな時、なんと声をかけたらいいのだろう。
どうしたらいいか、洸平も言葉が見つからない。



「看護師さん、あなたは立派だったよ!
赤ちゃんも、あなたを誇らしく思ってるはずさ」



その時、不意に声がした。
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