雨のリフレイン
「ここ。カーテン開けてくれる?」


洸平がカーテンを開けると、隣のベッドにバスの乗客だった女性がいた。
妖艶な雰囲気で、年齢よりずっと若く見える。
ベッドにつけられた名前は、『山口瑠璃子』
彼女は、慈愛に満ちた笑顔を柊子に向ける。


「誰にでも出来ることじゃない。
実は私、若い頃看護師だったんだ。五年くらいしか勤められなかったけど。まぁ、向いてなかったのね。私にはあなたのように、あんな場面で笑顔は作れなかった」

「…そうだったんですか。
先輩に対して出過ぎた真似をして、すみませんでした」

かつて看護師だったという山口。
そんなベテランの前で、まだ看護師になりたての柊子が張り切ってしまったことが、恥ずかしくて、身の程知らずの自分の行為を恥じた。


「何を謝るの?あなたのおかげで、私たちは救われた。あの時のあなたの笑顔は、神様のようだった。本当にありがとう、看護師さん。
でも、あなたのことは?あなたがあの時、あれほど強くいれたのは、赤ちゃんのおかげじゃないのかね?
赤ちゃんがあなたを救ったんだと私は思うよ」


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