雨のリフレイン
柊子は、窓の外に目をやる。

日が沈む。
まるで、悪夢のような1日がやっと終わろうとしていた。

悪夢。
いっそ、何もかも夢だったら…


「全部、夢だったらよかった。
ここにこうしていることも。
バス事故も。
赤ちゃんも。
結婚も。
お母さんの病気も、お父さんが亡くなったことさえ何もかも夢。
あの日、高校生の私が授業中の居眠りで見ていた夢だったら、よかった」

思わず呟く。
せっかく励ましてもらって落ち着いた気分になったけれど、母のことを考えてまた気持ちは沈む。

いっそ、何もかもやり直したい。
そんな出来もしないことを考えてしまう。



「…夢だったら、俺なんかと出会わずに済んだからな。
柊子が今、こんなに痛くて辛い思いをすることもなかった」

洸平も窓の外に目をやる。

「あの日もこんなどんよりとした天気で、雨が降っていた。
昼メシなんて買いに行かなければ。
外の雨なんか気にしなければ。
泣いている君に出会うこともなく。
でもそうなれば、今の俺は無かった。ただ、何となく医者やってたか、医者も辞めてたかもな。
だから。
柊子は、夢だったことにしたいかもしれないけど。
俺は君に出会えて、良かったんだ」

洸平が柊子に優しく笑いかけた。
大好きな洸平の笑顔が、自分に向けられた。こじれてしまってから諦めていた笑顔だ。

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