雨のリフレイン
「あの、先生、コンビニ寄っていいですか?
あったかい飲み物、買いたいです」


寒さに耐えられず、柊子は水上の背中に声をかけた。
すると、水上は振り向き、深いため息をついた。


「あと、10分もかからないだろう?
無駄遣いしない」
「…そう、ですね」


水上の言うことは、もっともだ。
仕方なく柊子は、ポケットの中から手を出して自分の息を吹きかけながら両手をこする。
吐く息は真っ白だ。


その時だった。


ふわりと暖かいものに包まれた。


「え?」


水上が自分のマフラーを外し、柊子の首にかけてくれたのだ。


水上の温もりの残るマフラー。水上の優しさが嬉しくて、自分の首にマフラーを巻きつけた。


「わぁ。あったかい。ありがと、水上先生」


マフラーから、ほのかにシトラス系の香りがした。
大好きな、水上の匂い。


「さぁ、急いで帰るぞ。信子さんも心配だ」


水上は、冷え切った柊子の手を掴むと早足で歩き出した。


「あー、先生の手も冷たい!先生も寒いんだ」
「今日は冷えるな」


急ぐ為とはいえ、手をつないでくれたのがうれしい。少し距離が近くなって、柊子の顔にも笑顔が浮かぶ。

いつも冷たい水上だが、時折不意にみせる優しさが柊子の心を鷲掴みにする。



面倒くさいって嫌われているのかもしれない。
それでも、私は、水上先生がいい。
水上先生の一番近くで、誰より信頼される看護師になりたい。
褒められたい。
私がいなければ困ると言われたい。


だから、頑張るんだ。



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