雨のリフレイン
こんなことは、初めてじゃない。
それでも、怖くて柊子は母の手をぎゅっと握った。

「悪いわね、水上先生。
柊子、心配しないで。大丈夫よ」


母が荒い息遣いの中、小さく笑って柊子の手を握り返してくれた。





「洸平!」

病院に着くと、ストレッチャーが準備されていた。翔太と夜勤の看護師が1人、柊子たちの到着を待っていた。

「柊子ちゃん、あとは任せて。
洸平、手伝って」

ストレッチャーに乗せられた母が運ばれていく。






静かな夜だった。
他に急患はいないようで、救急車のサイレンもしない。

柊子は蛍光灯の冷たい明かりの下、誰もいない寒い廊下の椅子に壁にもたれるように座って、ただ祈るしかできない。



しばらくして、処置室から出てきたのは水上だった。




「水上先生、お母さんは?」
「あぁ。…しばらく入院だ。それと」


水上が続けて告げた言葉に、柊子は、すうっと血の気が引いていく。

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