鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする





 「ごめんなさい………どうして、希海が一緒だとこんなに恥ずかしくもなく泣いちゃうんだろう……恥ずかしいけど、我慢出来ないと言うか……」
 「………我慢しなくていいさ」


 そう言って笑った後、希海は空澄の上から下まで確認した。


 「詳しく話しを聞きたいところだが、その前に手当てが必要だな」


 そう言って、空澄の左の腕にある傷口を見つめて顔を歪めた。


 「血は出たけど、そこまでの傷じゃないよ?」
 「これは鋭い刃で斬られた跡だろ?痛いはずだし、それに傷から悪いものが入ると厄介だからな。しっかり治療しよう」


 心配症だなと思いつつも、自分の体を大切にしてもらえるのは、やはり嬉しいものだった。
 この傷よりも言葉の傷の方が大きいのが本音だったけれど、彼にまかせて治療してもらう事にした。
 リビングにある救急箱を取りに行くのかと思ったが、希海が空澄を連れていったのは、秘密の地下室だった。そこの希海専用の皮製のソファに空澄を座らせ、彼は棚やテーブルの引き出しをガサガサと漁り始めたのだ。しばらくして、「これだこれだ」と、何か液体が入った小瓶とガーゼを持ってきた。


 「それは?」
 「俺が作った傷薬。薬草で作ってあるから安心しろ。ただし、かなりしみる」
 「えー………嫌だなぁ」
 「嘘だ。ほら、腕だして」
 「………もう。よろしくお願いします」


 ブラウスの袖を捲って傷口を露にすると、血は出ていなかったが、ぱっくりと裂けてしまっていた。ヒリヒリと肌が痛んでいたが、傷口を見るとさらに痛くなるように感じられるから不思議だ。

 希海は丁寧に傷口を水を含んだらガーゼで拭き、彼が作ったと言う薬を塗ってくれた。希海が言う通り、薬を塗っても痛みはなかった。だが、スーっとする爽やかで、野原にいるような香りがした。それは、空澄にとってとても思い出深いものだった。


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