鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする
「戦いは魔法だけじゃねぇんだよっ!」
「っっ!!」
大きな炎はリアム自身を隠すための囮だったのだろう。彼はいつの間にか空澄の真後ろまで来ており、空澄の耳元でねっとりとした口調でそう言ったのだ。
その瞬間、空澄みの周りを炎が包んだ。円柱のような形になり、空澄は炎の檻に閉じ込められていた。
「こんなものっ!!」
空澄が風魔法を発動させるが、風は檻の中をぐるぐる回るだけだった。それに熱風が空澄を遅い肌や喉、目が焼けるように熱くなり空澄は重い悲鳴を上げた。
「あーあー。その中で風魔法を使うなんて迂闊だな。まぁ、魔女になったばかりなんだ………仕方がないか」
「ここから出して!!」
「これから魔法も夫婦の営みも教えてやる。その代償はお前の魔力だけどな」
檻はゆっくりと動きだし。その中の空澄も同時に宙に浮かんでいた。
本当にリアムに拐われてしまうのか。
魔力のためだけに夫婦になり、一生彼に魔力を与えるだけの生活をしていくのか。
それを考えるだけでブルリと体が震えた。
思い出すのは、希海の微笑んだ顔。愛しい恋人の顔だった。
「………希海………助けて………何で、来てくれないの………希海ーーー!!」
誰かの名前を叫びながら助けを呼ぶなんて。
ドラマかアニメの世界だけなのだと思っていた。けれど、実際に恐怖を感じ、愛しい人に会えなくなると思うと、いてもたっても居られなくなるのだわかった。
希海に会いたい。
助けてほしい。
また、手を繋いで彼のぬくもりを感じ、彼に頭をポンポンと撫でられながら「大丈夫だ」と言って欲しい。
そう思って、火傷覚悟で炎の檻に触れて逃げようとした瞬間だった。
「…………助けに来たよ」
「え…………」
その言葉と同じぐらい、冷たい空気を感じた。
空澄が先ほどまで感じていた熱風は全くなくなっていた。それどころか寒いと思ってしまうぐらいだった。
「氷………?」
先ほどまであった炎はなくなり、大きな氷の器の上に空澄は居た。
唖然としながら、声が聞こえた方を見つめる。
すると、そこには軍服を着た銀髪の男が立って居た。小檜山だ。
「希海という男ではなく、申し訳ございません。ですが、お迎えに上がりましたよ。純血の魔女様」
まるで王子様のような台詞と、ゆったりとした華麗なお辞儀。舞踏会でダンスに誘われているような仕草にみえた。
だが、その声と視線、ニヤリとした笑みは、空澄を凍らせてしまうほど冷たく冷淡に見えてしまった。