鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする
希海に魔力を分けるのが嫌だとは全く思わなかった。キスする事も、恥ずかしいとは思うけれど、躊躇わいはなかった。
だからこそ、空澄は戸惑ってしまった。
今、彼に話している事は本当の事だけど、本音ではない。
自分が心配しているのは、希海がキスを嫌がっていないか。そんな、自分がどう思われているか、という心配だけなのだ。
彼は自分の身を案じているのに、自分は全く関係ない事ばかり気になっている。
それを希海にバレたくなくて必死に言い訳を語っているのだ。
頬を赤く染めて、彼に話し続けていると、希海はクスッと笑って「大丈夫だ」と言った。
そして、空澄の唇に人差し指を当てて、空澄の言葉を止めた。
「俺は空澄とキスするの嫌じゃない」
空澄の顔を覗き込みながらそう言うと、そのまままた希海にキスをされる。先ほどと同じ様に、ただのキスではない。深い深い口づけ。
彼が求めているのは空澄の魔力。そのためには、空澄の体液である唾液が必要なのだから、仕方がない事だけれど、やはり恋人でもない人との濃厚なキスは抵抗感がある。
けれど、それがまた背徳感を感じ、ドキドキを増幅させているのだろう。
それに、恋人だったらいいのか。
そう考えてしまうと、空澄はまた胸が高鳴るのを感じた。
リビングに2人の吐息と水音がしばらくの間続く。そして、希海が唇を離すと、空澄は力が抜けてしまい彼の胸に体を預けて、荒い呼吸を繰り返した。
けれど、余裕というよりは、魔力が回復してイキイキとした希海はニヤリと微笑んで「交渉成立だな」と、空澄の耳元でそう囁いたのだった。
それを聞き、空澄は体をゾクッと震わせた後、こらからの生活に少しの不安と期待を感じたのだった。