鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする
知ってるの?、と聞こうとして、空澄はハッとした。彼は鴉の海なのだ。子どもの頃から誰にも言えない事を聞いてもらったり、一人で歩いている時は彼が空から見守っていてくれていた。
希海は、誰も知らない空澄の本音を知っている唯一の存在なのかもしれない。
そう思うと少し恥ずかしくなってしまう。
けれど、彼は空澄をバカにする様子ももなく、ただただ優しく微笑んでいた。
「空澄がどんな気持ちだったのかとか、どんな事をしてきたのかも知ってる。だから、泣き虫なのも知ってる。………けど、それは頑張ったから泣くんだろう?大切な人がいるから泣いてたんだろ?………泣きたいとき泣かないとダメだぞ」
「希海………」
彼の言葉がとても優しくて、鼻の奥がツンッとして、瞳も熱くなってしまった。
今、泣いてしまったら希海にまた「本当に泣き虫だな」と言われてしまう。
けれど、彼はそんな事は言わなかった。
空澄の右手を優しく取り、「泣くなら家に帰ってからな」と言うと、手を繋いだままゆっくりと歩き出したのだ。
夜の景色に紛れてしまう程黒い、彼の背中をジッと見つめる。泣きそうになった目を片方の手で擦り、鼻をすすりながら手を繋いで歩く。
それは、小さい兄妹が慰められながら歩いているようだなと思い、空澄は苦笑してしまう。
けれど、希海の「泣き顔を見ないように」というお心遣いと、手から感じられるぬくもりに安心したからか、涙はもう出てこなくなっていたのだった。