鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする



 「大丈夫です。こちらに書かれている事は全て守ります」
 「わかりました。それでは、こちらに本名でのサイン、そして血印………血判をお願い致します」
 「血印………」


 自分の血で拇印をする事は聞いたことはあったけれど、それを実際にやることになるとは思ってもいなかった。
 戸惑う空澄にペンと、針が差し出された。

 まずは紙に自分のサインを残し、その後恐る恐る針を持つ。


 「親指に針を指して血を出してください。そして、こちらと控えの紙、2枚に押してください」
 「……………わかりました」


 針で刺すだけで怖がっていてはダメだ、と空澄は意を決して針で親指を指した。鋭い痛みを感じたあと小さく空いた傷からプクッと血が溢れてきた。


 「そのまま、ここに印を」
 「あ、はい!」


 小檜山は差し出した紙に、血が落ちないよう気を付けながら、指定された場所に指で血印をした。血液が止まらないうち、もう1枚も押し終わる。すると、小檜山がガーゼと絆創膏をくれた。

 「ありがとうございます」
 「これで魔女登録は終わりになります。後日、こちらから認定証を発送しますので、そちらを受け取り次第魔女として活動してもらってかまいません」
 「わかりました。ありがとうございます」


 挨拶を終えた後、空澄が書類を小檜山に渡すと、彼はその書類を鋭い視線で見つめ始めた。
 真っ白な紙に、赤い血の印が付いた紙。
 それを小檜山はジッと見入っており、空澄は何か不備でもあっただろうか、と心配になって彼の言葉を待った。

 
 「………申し訳ございません。書類は確かにお預かり致しました。魔女としてのご活躍をご期待しております。」
 「あ、ありがとうございますっ!」


 小檜山の初めての笑顔に、空澄は驚きながらも、お祝いされているのだとわかり、素直にお礼を返した。

 けれど、その笑顔は空澄が思っているような理由ではなかったと、空澄は知ることはなかった。



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