鴉と白骨は、寂しがり屋の魔女に恋をする
「あら、花里さん?久しぶりね!」
「あ………この度はご迷惑をかけてしまい、すみませんでした」
いつの間にか会社の前に到着していたようで、どこかに出掛ける予定だった先輩に声をかけられ、空澄はハッとした。
上司には辞めると告げており、今は残っていた有給を消化して過ごしていたのだ。
「大変だったわね。ニュースでも見たわよ。本当に残念だったわね」
「はい………」
「気にしないでゆっくり休んで。また、戻ってきたくなったら戻ればいいのよ」
空澄の両親が生きていたら、その年齢より少し若いぐらいの女性社員は優しくそう言うと、肩をポンポンッと叩いてくれた。気にしないで、と心からそう言ってくれているように思えて、空澄は思わず目が潤んでしまった。
その後、会社に向かうと他の社員も同じように迎えてくれた。空澄が会社にお邪魔すると連絡していたため花束やプレゼントなども準備してもらい、空澄は改めて自分は良い職場で仕事が出来たのだなと感じられたのだった。
けれど、そんな会社の人にもどうして仕事を止めなければいけないのかを、伝える事が出来なかった。自分が魔女と魔王の子どもだから、それを受け継ぎ、幼馴染みの死の理由をつきつめるため、だと話せばよかったはずだ。けれど、それが出来なかった。
それは、空澄自身が魔女に対して、偏見に似た恐怖心を持っているからだろうと思った。
両親の事も、そして希海の事もそんな風には思っていないはずだった。魔女の力を必要としている人もいるのだ。それを知ったはずなのに、魔女の力が怖いと思ってしまったのだ。