恋叶うオフィス
人差し指で自分を差すと武藤が「うん」とうなずく。なにか心配されるようなこと、あった?あ、もしかして、宇野くん……。


「宇野が諦めきれていなくて。渡瀬に迫ったら大変だと思ってね」

「もう、宇野くんのことは大丈夫なのに」

「いや、大丈夫じゃなかった。でもまあ、とりあえず宇野から離せたから良かったけどね。で、俺、渡瀬になにもしてないよね?」

「本当に覚えていないの?」


再び聞かれた武藤は、切羽詰まった表情を見せた。困らせるつもりはないけど、あんなに濃厚なキスをしておいて、覚えていないと言われたら、悲しくなる。

『気持ちいい』とまで言ったキスなのに。

武藤は私の問いに瞳を揺らした。


「やっぱり何かした?」

「キスしたよ」

「えっ? ……あれ、夢じゃなかった? リアルな感じだったけど夢かと……」

「夢の中で私にキスしてたというの?」


額に手の甲を当てた武藤は頬染めながら、夢の内容を赤裸々に語る。昨日の熱いキスを聞かされて、私の顔まで熱くなる。

そんなに詳しく言わなくても……。
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