恋叶うオフィス
看病しに来たのに、人の家で寛いで寝てしまった。そのうえ、病人に毛布を掛けてもらうという……失態だ。

武藤はベッドに腰かけて、隣をポンと叩く。私はおずおずとそこに座って、ちらりと彼を見る。穏やかな顔で笑っていた。


「夜中に喉が乾いて起きたら、渡瀬がいて驚いたよ。俺のベッドに運ぼうかとも思ったけど、風邪移したら困るから、そのままにした。ソファーで寝て、体辛くなかった?」

「大丈夫。でも、起こしてくれたら、帰ったのに」

「だって、帰ってほしくなかったから」


意外と寂しがりやの武藤に顔が綻ぶ。普段と違う姿を見せてくれるのが、うれしくなった。

熱が下がって、体も軽くなったと言うが、ぶり返すかもしれないからとまたベッドに戻す。横になった武藤は口を尖らせた。


「寝るのに飽きた」

「子供みたいなこと、言わないの。朝ごはん用意するから待っていてね」

「うん、わかった」


拗ねる武藤は大きな子供だ。でも、素直に言うことをきくから、かわいい。いい年をした大人の彼をかわいいと言ったら、怒るかもしれないけど、やはりかわいく見えてしまう。
< 109 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop