恋叶うオフィス
肩が冷えないようにと布団をポンポンと叩いてから、立とうとしたが、腕を掴まれた。


「武藤?」


ここで引き留められたら、ご飯の支度が出来ない。私に呼ばれた武藤は、ハッと腕を放した。無意識で掴んだようだった。

武藤は大きなため息を吐いてから、私も見る。


「なんかいろいろとダメだ」


私は無言で、彼が出した手を布団の中にしまった。それから、武藤の頬にキスを落とす。


「なっ!」


目を見開いて、顔を赤くした彼に手をヒラヒラと振って、部屋を出た。かわいい武藤にキスをしたくなった。口にしたかったけど、頬にしただけでも満足。

軽快な音を立てて、野菜を切る。具合の悪い武藤には申し訳ないけど、楽しいな。

弱っている武藤だから、いつもと違う姿を見せている、どんな姿でも愛しさは変わらない。

変わるどころかより増している。

ずっと気付かれないよう、伝えないようにしていた想いを伝えたくなってきた。彼が元気になったら、勇気を出してみようかな。

そんなことを考えながら、朝食作りに励んだ。
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