恋叶うオフィス
「こんにちは。兄がお世話になっています」


弟と紹介された広海さんが軽く微笑んだ。キリッとした顔立ちの彼は一見クールな感じに見えるが、微笑む顔が柔らかくて武藤に似ていた。

たまに武藤の話に出てくる弟さんだ……。確か両親が離婚して、弟は父親に引き取られたから別に暮らしていると言っていた。

……と、それよりも! 武藤の彼女だと思っていた人は、弟さんの婚約者?

突然の対面に呆然とした私は、慌てて挨拶を返す。


「あ、いえ! 私の方がいつもお世話になっていて……」

「渡瀬よりも俺の方が世話になってるよ」

「えっ、そんなことない、ない。いつも武藤に助けられているし、優しくしてもらっているのは私の方だよ」

「いつも言っているけど、優しいのは渡瀬の方だからね」


そっちの方が、こっちの方がとお互い譲らない私と武藤のやり取りに、紗世さんが笑いだした。


「紗世、いきなり笑うのは失礼だよ」

「だって、広海くんもおかしいと思ったでしょ? 」

「そうだけど。……なんか感情的になる兄さんを見るのは久しぶりだな。ふたりは付き合っていないような感じに紹介してたけど、付き合ってないの?」
< 126 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop