恋叶うオフィス
広海さんの隣で、紗世さんはまだクスクスと笑っている。そんなにも私たちのやり取りがツボにはまった?

笑われると恥ずかしくなる。武藤は困った顔で、首の後ろをかいた。


「紗世ちゃん、そんなに笑わないで。広海、俺たちは付き合ってはいないから」

「兄さん……」

「ん?」

「俺、兄さんにも幸せになってもらいたい。兄さんは家族のことを誰よりも考えてくれていて、いろんなことに気をつかってくれていた。うちの家族は別々になってから、みんな前に進めないでいたよね。でも、やっと俺も母さんも進めるようになった。兄さんのおかげで……」


武藤は「広海……」と呟いて、瞳を揺らす。広海さんは意思の強そうな瞳で、言葉を続けた。


「兄さんが誰かを好きになること、拒む気持ちはもちろんわかる。俺もそうだったから……。でも、頭で抑えていても、心は動くものだよ。俺は紗世と歩いていていこうと、結婚を決めた。母さんもこれから共に歩いていく人を決めている。だから、兄さんも自分の心が感じるままに、進んでほしい」
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