恋叶うオフィス
さっきまで笑っていた紗世さんは目に涙を浮かべて、広海さんに寄り添う。広海さんは紗世さんの肩をそっと抱いた。

武藤はなにも返さないで、広海さんをただ見つめている。なにを思っているのだろう。


「渡瀬さん、兄をよろしくお願いします」


広海さんと紗世さんが私たちから離れていったあと、武藤の背中に手を添える。彼は神妙な面持ちで私を見た。

どんなことでもいいから、武藤の力になりたい。


「今日はもう打ち合わせも会議もないよね? ちょっとベンチに座って、休まない?」

「ああ……うん……」


近くの小さな緑地公園にベンチがひとつだけ置かれていた。そこに並んで座る。誰もいない公園は、静寂に包まれていた。

武藤が空を見上げたから、私もつられて顔をあげる。青い空に、二羽の鳩が飛んでいた。


「武藤、大丈夫?」

「広海から言われたことにちょっと衝撃受けた……」

「弟さんも武藤のことをずっと思っていたんだろうね」
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