恋叶うオフィス
最初は私の目を見て話していたが、辛かった気持ちが思い起こされたのか、視線はまた地面へと落ちていった。私は少しでも安心してもらえるよう、「うん」と相槌を打って武藤の手を握る。

彼は声を振り絞るようにして、話を続けた。


「どんなに好き合って……一生を誓って結婚しても、人の気持ちは変わる。だから、結婚することは無意味だと思って、結婚も恋愛もしないと決めた。そうすることで、誰も傷付くことはないと……」


結婚することに意味がない。

傷付く未来が待っているから、結婚はしない。

恋愛も同じでいつか別れる。

両親の離婚で彼は恋愛に対して、トラウマを抱えた。もう二度と傷付きたくないと思う気持ちはわかるけど、でも……。


「絶対に心変わりしないとはいえない。でも、心変わりしないで、一生添い遂げる夫婦もいる。信じる気持ちがあれば……」

「信じていて、裏切られたときのショックは大きいんだよ。俺も母さんも広海も父さんにたいして、絶対的な信頼を置いていた。だから、信じても裏切られるものだと思い知った……」
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