恋叶うオフィス
「うちに来ない?」

「えっ? あ、うん。いいよ。行く……」

「じゃあ、そのようによろしく」


私も小声で答えた。武藤の顔が離れてから、姿勢を正す。もう本当に心臓が壊れそうだ。私は自分のデスクに戻らず、洗面所に向かった。

とても平常心ではいられない。鏡を見ると、赤くなっていた。落ち着け、落ち着け……。

社内恋愛禁止ではないけど、あまり周囲に知られたくない。好奇な目にさらされて、注目の的になるのは困る。

明日の打ち合わせに必要な資料のことを考えるようにして、気持ちを切り替えた。デスクに戻ると、チョコの箱が置かれていた。誰が置いたのだろう?

箱を手に取って椅子に座ると、隣の百々子ちゃんがこちらに顔を向けた。


「それ、武藤課長が置いていきましたよ。いつも渡瀬さんにだけ優しいですよね」

「ああ、そ、そうなんだ。えっと……」


お礼を言おうかと武藤のデスクを見るが、彼はいない。外出か会議で離席かな?

チョコの箱を開けて、ひと粒百々子ちゃんに渡した。私もひと粒食べる。
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