恋叶うオフィス
確かに武藤は普通と違う考えをしていると思う。武藤が何を言っても引き下がらない桑田くんを誰かが電話だと呼んだ。

「あ、忘れてた。電話が来る予定だった」


慌ただしく去っていく桑田くんを見送ってから、武藤と顔を見合わせた。お互い困ったように笑う。


「深い意味はないから、安心して」

「うん、分かってる」

「でも、俺からだと言わない方がいいよな?」

「そうね。変な誤解されたら困るものね」


それと、また質問攻めになるのも困る。


「でも、やっぱりよく似合ってる」

「あ、ありがと」


誰かに聞かれないようにと武藤が顔を近付けてきた。不意に距離が近くなって、思わず体が仰け反りそうになったが、それよりも先に意味深な言葉が耳元で囁かれる。


「ふたりだけの秘密ね」

「……えっ?」


驚きで固まる私のネックレスに軽く触れてから、武藤は満足そうな顔をして先に営業部のフロアへ入っていく。

一瞬呆けた私の顔は徐々に熱を帯びた。

やばい、平常心はどこへ……。再び給湯室へ戻り、顔の熱が冷めるまで待つしかなかった。
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