恋叶うオフィス
「ご、ごめん」

「いや」


慌てる私に反して、武藤は冷静だ。自分だけが動揺している。気を取り直してから「武藤」と呼んだ。

武藤は瞬時に少し離れた私を見る。


「狭いけど、うちで見る?」

「えっ、花火? いいの? どんな感じのベランダか気になる」

「気になるのは、ベランダなの?」

「いや、もちろん花火も」


花火よりもベランダの狭さが気になったみたいだけど、誘いにのったのがとにかくうれしい。今年の花火大会は特別な日になりそうな予感。

二週間後に開催される花火大会に思いを馳せた。武藤がビールを持ってきてくれるというから、おつまみなるものをなにか用意しよう。

おつまみだけでは、物足りないかな。ガッツリ食べれる物のほうが胃袋を掴めるかも。いや、餌付けするつもりはない……。

変に気負わず、いつもどおりでいよう。そうしないと、私の気持ちに気付かれてしまう。

でも、里香が言っていた……武藤はかなりの鈍感だから、言わない限り気付かない男だと。

確かにそうかも。
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