恋叶うオフィス
ベランダの手すりにおでこを乗せる武藤は、気落ちしているように見える。何をそんなにも?

キスしたことを後悔しているの?

後悔されるほどのキスをされた私は、彼にどう声をかけたらいいのだろう。これといった言葉が見つからず、ただ武藤の肩に手を置いた。

後悔されて落ち込みたいのは、私のほうなのに……。

すると、その手に武藤の手が重なった。まだ顔は伏せたままだ。


「ねえ、武藤……」

「ん?」

「いいよ、酔っていたことにしとこ。忘れはしないけど、気にしないでおくからさ。だから、謝らないで」


後悔してほしくない。後悔されたら、伝えていない私の気持ちを拒否された気分になるから。

少し手すりから顔を離した武藤は、「渡瀬」と私を見た。まだ瞳に力はない。しかし、重ねていた手に力が加わった。


「ありがとう。そう言ってもらえると救われる。渡瀬はいつも優しいよね」

「ううん、そんなことないよ。武藤のほうが優しい。いつも助けてくれるし」

「いいや、絶対渡瀬のほうが優しい。俺は渡瀬の優しさにいつも甘えてしまうから。はー、だからって、ダメだよな」


最後の『ダメ』に胸が痛む。
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