恋叶うオフィス
武藤は宇野くんの肩に手を置いてから、他の席を見回して、立った。まだ残っているビールのジョッキを持って、総務部勤務の坂本くんの隣に移動していった。

どうして、ここで移動?


「あいつ、逃げたな」

「うん、逃げたよね。男らしくない」

「ほんとヘタレだな」

「ダメダメだ」


坂本くんに話しかける武藤を見て、私たちは口々に彼の悪口を言う。私たちの声の届かない場所で武藤は笑っている。

坂本くんに用があったのかもしれないけど、今の武藤は逃げたという言葉がピッタリと当てはまる。

私たちは別の話題に変えて、武藤を見ないことにした。

一次会がお開きになり、二次会に行く者と行かない者に別れる。私は行かないで帰る予定だ。


「渡瀬、帰るなら送るよ」

「宇野くん、大丈夫だよ。まだ電車もあるし、時間も早いもの」

「いろいろと心配だからさ、送らせてよ」


二次会はカラオケらしく、何人かが近くのカラオケ店に行こうと盛り上がっていた。私はふと武藤が気になり、彼の姿を探す。

あ、今出てきた……。

トイレに行っていたのか、ひとり遅れて店から出てくる武藤を見つけて、つい手をあげる。
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