恋叶うオフィス
まだキスの余韻の残る唇に手を触れていると、頭を掻きながら武藤が戻ってきた。彼の動きを目で追う。

武藤はふと腕時計を見てから、私を見る。


「帰らないと」

「えっ?」

「渡瀬、おやすみ。また明日な」

「ええっ、ちょっと……」


手を振って玄関に向かう武藤に慌てた。待って、待って……急いで追って、靴を履いた武藤のシャツを後ろから掴んだ。

引き留める私に彼は振り向く。


「ん?」

「あ、えっと……」


引き留めたけど、言葉が出てこなく、思わず掴んでしまった手を離した。床に視線を落とした私を武藤がフッと笑った。

顔をあげるとすぐ近くに彼の顔があって、額にキスを落とされる。

えっ……。

固まる私の頭をポンッと軽く叩いて、「またな」と出ていった。私はおぼつかない足取りで、ソファーにもたれる。

さっきの武藤はなに?

あんなに濃厚なキスして、あんなに優しい目で見つめて……なに?

どうしちゃったの?

『気持ちいい』と『欲しくなった』が頭の中でぐるぐると回る。これから、私たちはどうしたらいいの?

いろいろ考えて、眠れず……翌朝を迎えた。
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