音のない君への告白
出会ったのは四月だったのに、もうすっかり七月になっていた。セミが鳴き、梅雨が終わったせいで蒸し暑さが残っていく。

「音無くん、夏休みは予定ある?」

そう訊ねる上原に、「あるわけないだろ」と俺は言った。その言う表情がわずかに緩んでいると自分でわかる。上原と少しでも関わると、表情が少し現れるんだ。

夏休みはきっと、宿題をするだけの一ヶ月と少しになるんだろうと思っていた。友達はいないし、家には家族がいる。朝から晩まで図書館にでも行くしかない。

そう思っていた俺に、上原がニコリと笑って言った。

「夏休み、遊びに行ける日があったら遊びに行こうよ」

その言葉が、とても嬉しかった。俺は頷き、「基本的には暇」と返す。上原は「嬉しい」と両手を折り曲げ、親指以外の指の先を胸に向けて交互に上下に動かした。

あれ?この胸にある感情は何なんだろう?上原といる時間が温かくて、優しくて……。

この胸にある感情を知らないまま、俺は夏休みを迎えた。
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