音のない君への告白
上原と目を合わせた女子生徒は、次の瞬間に手を激しく動かし始める。上原を指差し、俺を指差した後に、人差し指を鼻をかすめるように動かしたり、何のジェスチャーだ?上原もそれに対して手を動かして答えている。

「あんた、ずっと最低な人間だと思ってたけど、ますますありえないわ」

上原の友達は怒り出し、それを慌てて上原が止めている。何が何だかさっぱりわからない。

「結菜はね、生まれつき耳が聞こえないの。だから話せないんだよ!」

「耳が、聞こえない……?」

目の前にいる上原の世界には、俺の声も友達の声も聞こえていない。音がない世界で生きているのだ。

二年生の四月、俺はそんな人と生まれて初めて巡り会った。



その日の夕方、俺は上原のことが気になって図書室で本を見ていた。見ているのは、手話や聴覚障害者についての本だ。

なぜ、人を嫌う俺がこんなにも上原を気になるのかはわからない。しかし、上原の目を見た時に瞬間的に思ったのだ。

綺麗な目だな、と。
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