一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
「さあ、下着を着けて。落ちないようにな。転んだらダメだぞ。萌音一人の体じゃないんだから」

ギリシャ神話の男女一体型人間、アンドロギュロスはその強力な力故に働かない怠け者だったという。

アンドロギュロスに手を焼いた神様が男女を分離させ、子供を作ることで働く意欲を持たせたというが、海音が萌音の半身なら、神様の諸行は大成功と言えるだろう。

海音はこんなにも献身的で働き者なのだから。

子供が生まれてもいないのにこの勢い。

゛実際に子供が生まれたら私の出る幕はないんだろうな゛

と、萌音はクスリと笑っていた。

「今、子育てで私の出る幕はないとか考えてただろう?」

萌音は心を読まれてドキッとした。

「そ、そんなことを・・・」

「いや、俺は萌音の考えてることは分かる。最近太ったとか、胸が大きくなった、それ妊娠したせい?とか、内診中、そんなことばかり考えてただろう?」

海音の言葉に、やはり海音も萌音が太ってきたことに気づいていたのだと焦った。

「やっぱり太った・・・んだ」

「俺的には抱き心地も触り心地も良くて大満足だったんだよ。元々痩せすぎてたしな」

励まされているとは思えない言動に、萌音はがっくりと肩を落とす。

思いやりのない言葉に涙が出そうになる。

じわりと滲んできた涙に、海音がギョッとする。

「いや、悪い意味じゃないんだ。どんな萌音でも愛してる」

そっと抱き寄せる海音の胸をそっと押す。

「一人にして」

萌音は内診台から降り、下着をつけるとカーテンの外に出た。

そこには、看護大学の実習生と思われる水色のナースウェアを身につけた若い女性が真っ赤になって立っていた。

「お、お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

萌音は、海音を置き去りにして、さっさと受付の方に移動した。
< 10 / 86 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop