一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
暗くなり始めた冬の夕方。

12月も末になると空気は頬を突き刺すような寒さだ。

会計を済ませなければならないが、萌音はとにかく一旦気持ちを落ち着かせたかった。

両親との関係性も薄い自分が母親になる。

さっき見た超音波の我が子も、我が子の心音も、神秘的で感動を覚えたが、その分不安も感じた。

雑誌やインターネットの記事は

『子供ができた喜びに感動して涙が出ました』

とか

『一日も早く会いたくて仕方ありません』

とかいった、

いずれも母性に溢れるコメントばかりだったと記憶している。

確かに嬉しさもある。

だが、こんな未熟な自分が、愛情を与えることに慣れていない自分が、誰かを育てることなどできるのかという不安の方が正直大きいのだ。

かつての恩人、野瀬教授の講義での言葉が甦る。

゛避妊も100%ではありません。簡単な気持ちで関係を持って、望まぬ妊娠や病気をもらうのは自分を傷つける結果となるのです゛

海音も避妊はしてくれていた。

それが100%ではないと知りながら、萌音は海音に抱かれていた。

誰のせいでもない。

萌音は、妊娠を覚悟して海音に抱かれていたはずだから。

゛本当に?゛

ホルモンのバランスを崩した萌音の思考は、妊娠の発覚と共に知らず知らずのうちにネガティブな方向へと引きずられていく。

何でも一人で解決しようとしてきた萌音は、思わぬところで自分の弱さと対面することになったのだった。
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