一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
「マタハラとか、モラハラとは縁のない職場でありがたいです」

「当たり前じゃないか。我々の天使、萌音ちゃんを蔑ろにする奴は私が許さない」

大きくなってきたお腹を抱えて、報告書や設計図を届ける萌音に、矢野課長は笑顔で言った。

貧相な体つきで特徴のない人だな、という初めの印象とは違い、矢野は仕事も出来て、頼りになる人格者だった。

「我慢のたりない海音のフライングには呆れたが、双子なんていう奇跡を見せつけられたんじゃ応援するに決まってるよ」

海音と萌音が喧嘩した時には、いつも仲裁役をかって出てくれる中武主任も萌音が尊敬する先輩の一人だ。

「萌音ちゃん、そんなの俺がするから座ってて」

「そっちの書類は僕が・・・」

笑顔でお礼を述べる萌音を見たくて、設計課の男性陣は、我先にと萌音を手伝う。

男性に負けまいと気を張ってツンツンしていた萌音はどこにもいない。

妊娠した萌音は、母性に目覚め、何よりもお腹の子供を優先するようになり、変なプライドを捨て去ることで自分と子供を守ることを自然に覚えていた。

「僕の嫁にいつも優しくしてくださってどうもありがとうございます」

「あ、海音。帰ってきてたのか」

そそくさと自席に戻る男性陣。

彼らは決してやましい気持ちで萌音に接しているわけでも、海音から萌音を奪おうとしているわけでもない、はずだ。

紅一点、しかも完全なる美少女妹キャラに変身を遂げた萌音に優しくしたい、それだけだ、たぶん。

しかし、海音はそれが面白くない。

゛だか、我慢、我慢だ、俺゛

以前のように四六時中萌音と一緒にはいられない。

危険な建設現場には連れてはいけないし、酔っぱらいのいる接待なんてもっての他だ。

会社にいて作業をすることが多くなった萌音との仕事中に一緒に過ごす時間は減った。

゛だが、彼女の体のことと双子のことを考えたら俺が我慢するしかない゛

少し大人になった海音は

キメ技゛我慢する゛

を覚えたが、室内で萌音と長時間仕事をすることの多い、50代の矢野課長にすら嫉妬するのを内心止められずにいた。
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