一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
後少しでマンションのエントランス、というところで気分が悪くなった。

立っていられないくらいの倦怠感。

萌音は、短く息を吐きながら、建物の壁に寄りかかった。

「あなた、大丈夫?」

買い物帰りの主婦とおぼしき女性が声をかけてくれた。

「申し訳ありませんが、私のバッグの中からスマホを取り出してもらえないでしょうか」

それだけ伝えることが精一杯だった。

「まって、あなた妊婦さんでしょ?救急車を呼んだ方がいいわ。真っ青じゃない」

その頃には最早反論する元気もなかった。

立っているのもやっとで、救急車が来るのが長く果てしなく感じた。

救急車の要請から到着までの平均時間は6分。

たらい回し問題についてのニュースで得た無駄知識がなぜか頭に浮かんで苦笑した。

救急車に収容される頃には、萌音の意識は朦朧として暗い闇に引きずられていった。
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