一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
「そんなことより・・・」

゛えっ?今、千香子さんをスルーした?スルーしちゃったの?゛

萌音はワタワタと心のなかで焦っていた。

千香子はスルーしてはいけない人である。

この数ヵ月、千香子をスルーして逆鱗に触れる、海音や風太郎を見てきた。

千香子はスルーされることを極端に嫌うのだ。

昔付き合っていた韓流風イケメンが、何でもスルーする自己中心的な人物だったらしく、ちょっとしたトラウマになっているらしい。

ハラハラする萌音と、顔をひきつらせる海音。

そして、固まる風太郎。

何も知らない鈴原とスタッフは、全員図面に目を向けている。

「そ・ん・な・こ・と・より?」

千香子の目が般若のようにカッと見開いている。

「私の大事な嫁に暴言を吐いた挙げ句、上から目線で見下して、その上、あなたを紹介した恩人である私のことはスルー?他社から紛れ込んだスパイのくせに、図々しく萌音ちゃんの作品を見たいだなんて・・・恥を知りなさい!」

いつも穏和な社長婦人の大声に、設計課だけではなく、隣の建築課のスタッフまでもが固まったことは言うまでもない。
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